俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
考えれば考えるほどあり得ないと思うのに、和花ちゃんは「だからー」ともどかしそうに反論する。
「それが周防さんの愛情表現だったんでしょ。まあ傲慢なのと口が悪いのは性格だけど、ようは好きな子をいじめたくて仕方ないタイプなんでしょ、周防さんって」
まさかと思ってポカンとしてしまうけれど、和花ちゃんだけでなく東條さんまで真面目な顔で頷いている。
「でも、でも、周防さんって多分すごい面食いだよ。だって……あのシンガーの璃々が元カノなんだから。私なんて絶対にタイプじゃないと思う」
自分で言いながらダメージを負ってしまった。けれど事実だ。あんなお人形みたいな美しさの璃々と付き合っていた人が、地味でフクフクな私を好きになるわけがない。それどころか女性として見られていたかどうかも怪しい。
「私もその噂聞いたことあるけど、それって結構前だよね。年齢が上がったら好みのタイプが変わるなんてよくあることじゃん。それか、好みのタイプを好きになるんじゃなく、『好きになった人が好みのタイプになる』人なんじゃない? 周防さんって」
さらなる和花ちゃんの反論は妙な説得力があって、私はうっかり納得しかけてしまう。
(……そう言われてみると……私のこと『かわいい』って頬ずりしてきたときの周防さん、今思い出してもあんまり演技って感じじゃなかったな……)
考え込んでいると、和花ちゃんは東條さんに向かって「椿樹さんはどう思う?」と尋ねた。
すると東條さんは「ちょっと失礼」と席を立ち、戻ってくるとテーブルの空いているスペースにノートを広げて何やら書き出した。
「……もしかして、フレームワークですか?」
「そうだ。きみはもっと冷静に状況を把握し解決策を見出す必要がある。まずはロジックツリー分析からだ」
東條さんが非常に理知的でロジカルな性格であることは知っている。けれどまさか、恋愛相談まで分析されるとは思わなんだ。
そんな東條さんを見て和花ちゃんは卓上コンロの火を弱めると、「早めにお願いね。鍋が煮詰まっちゃうから」と慣れた風に言った。