俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
心の底から呆れたように吐かれたその台詞に、璃々さんが覆っていた顔を上げて怒りの籠もった眼差しで周防さんを見上げた。
周防さんはそれを冷ややかな目で返し、去り際にひと言吐き捨てていく。
「何十万人っているお前のファンに恨まれようと俺はかまわねぇよ。何十万人のためのラブソングより俺は自分の恋人を守る。――話はこれで終わりだ」
それは圧の籠もった声だったのに、私の胸は感激に高鳴った。
たとえ世界中の人が美人で才能にあふれている璃々さんを選んだとしても、周防さんだけは私を選んでくれたような。そんな気がした。
何回も自分と璃々さんを比べてしまって傷ついた心が、今はとても温かく感じる。
「うわ、カッコいいね~周防さん。やっぱり女の子ってああいうふうに言われると嬉しい?」
隣に立つ小宮山さんが冗談めかしながら聞いてきたけれど、私はそれに「はい、すごく」と素直な笑顔で答えた。
さすがにもう追いかける気はなくなったのか、璃々さんはエントランスを出ていこうとする周防さんを睨んだまま動こうとはしなかった。
「行くぞ」
エントランスの隅にいた私たちに短く声を掛けて、周防さんは外へ出ていく。
その後についていきながら、私は最後に振り返って見た璃々さんが項垂れて目を拭っていた姿に、少しだけ胸が痛んだ。