俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
(あ、やばい。逃げたい)
どうして彼の機嫌が悪くなったかは分からないけれど、火に油を注いでしまったのは確かなようだ。
身の危険を感じて思わず椅子から腰を浮かしかけたとき。
「……ふーん」
周防さんは再びそっぽを向くと眉間のしわを消して、グラスに残っていたビールを一気に飲み干した。
それから伝票を取って立ち上がると、「悪い。少し酔ったみたいだから、先に帰るな。お前はゆっくりしていけ」と言って、さっさとレジへ行ってしまった。
「え? あの……?」
ひとり残された私は目で周防さんを追いながら、呆然とする。
(なんで? もしかしてガチ切れ?)
まさか席を立つほど怒らせてしまっただろうかとも焦ったけれど、それは違うような気もした。周防さんはどんなに腹が立ったときでさえ、人と向き合うことはやめない。そこは密かに尊敬している。
(じゃあなんで……? 具合でも悪いのかな)
会計を済ませ店を出ていく彼を遠目に見ながら、私はなんだかしょんぼりとした気持ちになった。
周防さんと一緒にいるときは嫌だなと思うのに、離れた後はなんとなく寂しい。
そう感じるのはいつものことなんだけれど、今日は特にその気持ちが強いような気がした。
(悪いことしたかな……。今日の周防さん、ちょっと優しかったもんね。気を遣って料理取り分けてくれたり、パワーストーンのこと謝ってくれたり。それなのに私、態度よくなかったかも……)
申し訳なさに胸がキュッと詰まり、私は無意識に服の上からネックレスのガーネットを握りこんだ。