俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
和花ちゃんは「シーッ! シーッ!」と人差し指を口もとにあてた後、赤くなった顔を落ち着かせるように咳払いをしてから、まじめな表情で私を見据えた。
「私のことはどうでもいいの。それより梓希、恋って自分が思ってるより身近にあるものだよ。勇気出してきっかけ作ってみたら、案外あれよあれよという間にうまくいったりするんだから。だから最初からあきらめてないで、ちょっとだけ動き出してみなよ」
その言葉に妙に説得力を感じるのは、やはり彼女の実体験だからだろうか。羨ましい。
けれどそのおかげで、私の胸には根拠のない自信がムクムクと湧いてきた。
「そ……そうだね。ありがとう、和花ちゃん。ちょっとがんばってみようかな。もしかしたら万が一ってこともあるし!」
「そうだよ、あきらめないで!」
和花ちゃんに励まされ、なんだか気持ちの盛り上がってきた私はこぶしを強く握りこむ。
「よーし。私も小宮山さんとお付き合いして、イイ女になって、仕事もバリバリこなしちゃうもんね」
鼻息を荒くしたところで、タクシーは打ち合わせ場所の制作会社へと到着した。
いろんな意味で気合を漲らせてタクシーを降りた私だったけれど、この日の打ち合わせは揉めに揉め、制作会社の担当さんの「そもそもコンテのセンスがないのが問題なんだよなあ」という盛大な嫌みに打ちのめされ、私の自信や気合など木っ端みじんに吹っ飛ばされたのだった。しんどい。