俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
 
椛田梓希(はなだ あずき)、二十四歳。中堅広告代理店『しののめ広告会社』に勤める私は、入社二年目のクリエイティブ部デザイナーだ。

昔から美術が好きで広告業界に憧れていた私にとっては天職……のはずなのだけれど、現実は簡単じゃない。

仕事は忙しくて徹夜も泊まり込みもしょっちゅうだし、それなのに成果なんかちっとも出やしない。渾身のポスターデザインを上司のAD(アートディレクター)に鼻で笑われることも日常なら、チームを組んだ営業部員に『なんだよこのへっぽこデザイン!? お前、俺の話聞いてたか⁉』なんてブチ切れられることもしょっちゅうだ。

それでも私のCMコンテが採用されてプレゼンに通って大喜びしたこともあったけれど、タレント側からNGが出て結局ポシャってしまったときはさすがに泣いた。

やりがいって何? 仕事ってなんのためにするんだろう? 終電で帰りながらそんな虚無な哲学が浮かんできてしまう毎日。当然彼氏なんかできないし、忙しすぎて友達とも疎遠になりつつある。

そんな私の心の支えが占いやパワーストーン……いわゆるスピリチュアルだ。

スピリチュアルはいい。自分じゃどうにもできないことでも、不思議なパワーで何とかしてくれる気がする。迷ったときは道を指し示してくれるし、満身創痍でズタボロな心だって、パワーストーンがあれば癒してくれるんだから。

そんな訳で、スピリチュアル女子の私は今日もラッキーカラーとパワーストーンで武装して会社へ向かう。

今日は大事な大事なプレゼンがある。私にとってはそこそこ大きな案件だ。
 
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