俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
「だ、だ、駄目、です……だって、だって」
頭が熱くてちっとも冷静になれやしない。なんとか彼の心臓を止めないようにしつつも断らなければいけないのに、私は真正面にある周防さんの端正な顔を見つめながら(キスしちゃった、私この唇とキスしちゃった)なんてことしか考えられずにいた。
「俺と付き合ってほしい、梓希」
直球で交際を申し込まれ、まっすぐに見つめられ、もはや私に選択肢はなかった。
だってここで首を横に振っちゃったら、周防さんの息の根が止まってしまう。だからといって大混乱中の頭でうまく言い逃れる方法なんか浮かぶはずもなく。
私は周防さんの熱い眼差しと周囲の好奇の目に囲まれながら、「……はひ」と声を震わせて頷くことしかできなかった。
「つ……疲れた……」
ようやく自分のアパートに帰ってきた私は、着替えもせずにそのままベッドへと倒れこんだ。精神的にクタクタでもう動く気力がない。
あれから大変だった。告白を承諾した私を周防さんは大喜びで抱きしめ、周囲の人たちからは『おめでとー』なんて声をかけられたり拍手をされたり、あげくのはてには勝手に写真まで撮ろうとする人が出る始末だったのだから。
周防さんは約束通り送るのはタクシープールまでで、〝送りオオカミ〟にはならなかったけれど、そのかわり別れ際に『おやすみ』とおでこにキスをしてきた。
恋愛経験のない私にとっては、おでこのキスでも刺激が強い。
タクシーに乗ってからも胸のドキドキは収まらなくて、今日の私の心臓は一生分の鼓動を打ったのではないかと思う。