俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
「よかったね、椛田ちゃん。今までで一番おっきい仕事じゃない? おめでとう」
「椛田は全国区CM初めてか。よかったなあ」
私たちのやり取りを見ていたクリエイティブ部の人たちも、温かい声をかけてくれる。それがまた嬉しくて涙腺が決壊してしまった私は、鼻をすすりながら「ありがとうございます」と笑った。
本当に嬉しい。大きな案件を勝ち取れたこともだけれど、周防さんやチームのメンバーの足を引っ張るようなことにならなかったことが、なによりよかったと思う。
そんなことをしみじみ思っていると、ふと私の顔に手が伸ばされ、長くて骨ばった指が目もとを拭った。
「こんなことで泣くな、馬鹿」
愛しさが溢れ出るような優しい声と指の感触に、心臓が大きく高鳴った。
「す、すびばせん……っ」
なんだかたまらなく恥ずかしくなって、慌てて顔を俯かせた。一瞬見えた周防さんの顔はものすごく優しくて、けれどどこか切なさも混じっていたような気がする。
胸がドキドキいうのを止められないまま、ハンカチで涙と鼻水を拭っていた私だったけれど――。
(……ん? あれ? ……今、『馬鹿』って言わなかった?)
そんな違和感に気がついた。