俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
「梓希。俺そろそろ帰るけど、一緒に帰れそうか?」
ここ最近すっかり日課となった周防さんのお誘いを聞きながら、私は(一番大きな問題だけは解決しなかったなあ)と心の中で唸った。
絶好調で怖いもの知らずな十月も今日で最後だけれど、結局周防さんの惚れ薬の効果が解けるような兆しは見られなかった。もちろん、シャーマン美鈴の行方も相変わらず手掛かりなしだ。
「ご、ごめんなさい。今日もまだかかりそうで……」
眉尻を下げてそう返せば、周防さんは少しだけ寂しそうに笑って「そっか」と私の頭を軽く撫でる。そうして「あんまり無理するなよ」と言って、踵を返し廊下へ出ていった。
彼とお付き合いをすることになってから、退勤時になるとほぼ毎日繰り広げられているやり取りだ。まあ退勤時といっても帰る時間はお互い不規則で、今日も夜の十時を回っていたりするんだけれど。
周防さんは自分が帰るとき、必ずクリエイティブ部の私のところへ来て声をかける。時間によって「一緒に帰ろう」だったり「晩飯いかないか」だったり。
けれど私は仕事にかこつけてそれを断り続けていた。どうやら仕事などやむを得ない理由で断り、彼が拒まれたと思わない状態ならば、命に別状はないらしい。
そのことに気づいて、私は仕事を盾に彼からの誘いを断り続けていた。
ちなみに嘘だとそれは通用しないらしい。なので私は仕事のスピードを調整し、周防さんと退勤時間が被らないようにやりくりしている。
今日も周防さんが帰ってから三十分後にキリのいいところまで終わらせ、退勤の準備をする。ところが。