俺様上司が甘すぎるケモノに豹変!?~愛の巣から抜け出せません~
  
「梓希さん。今度の六本木のイベントって出る?」

ふいにこちらに話を振られて、私は焦りながらコクコクと頷いた。

デザイナー含むアーティストは会社以外の横の繋がりも重要だ。情報交換、若手育成、日本全体のアーティストのレベルの底上げや待遇向上のためにも、イベントやシンポジウムなどがたびたび開かれている。

来月も都内で活動するデザイン系アーティスト向けのイベントがあり、私もそれに招かれていた。

私が頷いたのを見て小宮山さんは「あ、じゃあ」と言うと、いったん口を噤んでから少しだけ声のトーンを落として続けた。

「終わった後、よかったら少しだけ付き合ってもらえないかな? ちょっと相談したいことがあって」

「へ!?」

思いもよらなかった申し出に、素っ頓狂な声が出てしまう。

小宮山さんが私に相談したいことってなんだろう、想像もつかない。でも憧れの存在である彼が何か困っているのなら、力になりたいと思う。

「わ、私なんかでよければ……」

そう答えると小宮山さんは嬉しそうに口角を上げて「ありがとう。じゃあ、イベントでまた」と軽く手を振り、去っていった。

彼の後ろ姿を見ながら、私はなんだかドキドキとしてしまう。憧れの人に頼られた嬉しさと、もしかしたら初めて小宮山さんとふたりきりでお茶か食事をすることになるかもしれない期待で。
 
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