オーロラの下、君を想う
真冬は、今まで海外旅行に行ったことはない。普通ならば、日本では見られない街並みや食べ物、文化に驚いたりはしゃいだりするのかもしれない。しかし、真冬の心は驚くほど何も感じていなかった。

ノルウェーでは、フィヨルドを観光したり、ベルゲンという街でかわいらしい三角屋根の木造建築を見たりした。スウェーデンでは、ルンド大聖堂やストックホルム宮殿を訪れた。北欧でよく飲まれているというヨーグルトドリンク、ヨッギ ヤッラも飲んだ。しかし、真冬の心には何も響かない。

あの日から、真冬の心は時間を止めている。針が動くことはない。受け止めきれない出来事に、真冬はただ涙を流すしかないのだ。

「……もう疲れた」

真冬は街をぶらぶらと歩き、ショーウィンドウに映っている自分の顔を見てまたため息をつく。どう見ても、楽しげに観光している日本人ではない。

旅行をすれば気分転換になると先輩から言われたため、真冬はここに来た。しかし、心は軽くなるどころかますます傷ついている。
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