【短】センパイ、センパイ、センパイ。
センパイ
頬に、透明な雫が落っこちた。
さっきまでの青空は、ネズミにしてやられたのか、どんより暗くなる。
どこまでもくすんだグレー。
照明要らずの天然日光を、容易に蹴散らしてる。
『お兄ちゃんがバンドやるらしいんだ!』
そう友達に強引に連れられた高校の文化祭は、雨天で台無しだ。
私と友達は中学三年生ということもあり、学校見学も兼ねていたのだけれど。
例のバンドがちょうど野外ステージで演奏をし始めたばかりだった。
男子しかいないバンドメンバーの手が、次第に止まっていく。
激しくも繊細だった音色はどんどんか細くなり、やがて雨音のほうが大きく奏でるようになった。
せっかくちょっと聴き惚れていたのにな。
それなりにいた観客は、雨が降ってきたやいなや校舎内に避難していった。
ステージ前にいるのは、私と友達と、ほか数名。数えられる程度だ。
「雨やばいね。あたしたちも早く中入ろ」
楽器を片付けだしたバンドメンバーに、友達も諦めて校舎の方を向く。
楽器は雨に弱い。
そう誰かが言ってたっけ。
「そうだね」
このままここにいたら風邪引いちゃう。
急いで雨宿りしに行く。
「あああっ!!」
――突然。
響いたのは、絶叫。
……いや、歌だ。