赤傘
蓋をしていた想い。
太郎が寄越した連絡で無理矢理揺り起こされた。

でも会う時はすごく緊張した。
彼は変わってしまっていないだろうか。

僕だけ変わらず、こんな気色悪い感情引きずっているなんて悲しすぎるだろう?

「君はほんとうに変わらないね」

少しホッとした。

変わらない君にも。
二人でよく行った店も。

ぶっきらぼうで優しい君。
僕のことを『お前』と呼ぶ度に鼓動が跳ね上がる。

………でも結婚したんだよな。

結婚生活についてなんて聞けなかった。
泣き虫な僕はこの場で泣きたくない。

久しぶりの時間を僕は楽しみたい。
たまに何やら視線を感じたが、気のせいだろう。

「……チッ」

彼が舌打ちして忌々しげにスマホを見るのに気づいた。
仕事だろうか。それとも。

「出なくていいのかい?」

握り潰さんばかりに握りしめている。
ついつい横から覗き込んでしまった。

……奥さんか。
それにしてもなんて言うか心配性だな。
相手はただの友達である僕なのに。
う、自分で考えていて少し傷付いてしまった。

「娘さんだっけ。可愛いね」

まだ赤ちゃんだけど、目元は彼に似てるなぁ。
少しくせっ毛なのは奥さん似かな。
少しだけ嫉妬してしまった……赤ちゃんなのに。

……君は彼から沢山の愛情を受けて大きくなるんだね。
正直羨ましいよ。

画面に写る彼の娘さんに心の中でそっと話しかける。
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