赤傘
二時間弱くらい、あの頃のように歌った。
ひたすら懐かしい歌を。
俺や晃が歌う歌は、大体互いが知っていた。

しかしたまに数曲、俺が知らない歌を彼は歌った。

「最近好きなんだ。友達に勧められてね」
「友達、か……」

男か女か、恋人かもしれねぇな。

俺には関係ない話のはずなのに。
何故だか胸の中を不快な気分が過ぎった。

それを抱えながらも、俺ははにかんだ顔で画面を見つめて歌う晃を横顔を眺めていた。

……唐突に。綺麗だな、と思った。

なにがだと聞かれると困るが。
瞬間、心臓を鷲掴みにされるような苦しさを感じた。

「!?」

思わず服の上から掻き毟る。

……なんだろう。不整脈か?

訝しみつつ、再び晃に視線を戻す。

長い睫毛、切れ長の目。
形のよい小さな鼻は筋が通り、口はほんの少し大きめで唇は薄い。

……さっき綺麗だと思ったのはこれらしい。

< 3 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop