転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
リヒャルトが二人を招き入れたのは、満月宮の中にある彼の私室だった。以前、ヴィオラが泣いてしまった時に招かれたのもこの部屋だ。
「タケル、ヴィオラとの縁談――ととのわないものと思ってくれ」
「どういう意味だ?」
「こちらから、イローウェン王国に縁談を持ちかけている」
「それ、さっきセドリックも言ってた。本当なのか?」
「皇妃様は、そのおつもりみたい」
ここで、皇妃の名を出したのは――縁談がリヒャルトの本意ではないと知っているからだ。
政治的な面から考えても、ヴィオラを相手にするよりは、他の国の王女なり、帝国内の有力貴族の娘を迎える方がいいに決まっている。
リヒャルトとの縁談は、ヴィオラを守るためのひとつの手段だ。
「……なんだよ、それ」
むっとした様子で、タケルは乱暴にソファに腰を下ろした。彼の体重を受けて、ギシリとソファがきしむのも気にはしていないようだ。
「タケル。君は、なぜヴィオラに縁談を?」
「そ、それはこいつが……ヴィオラが、この国で人質になっているから、で……」
「タケル様は、誤解しているんですよ、リヒャルト様」
タケルに悪気がないのはわかっているのだ。
ただ、彼は不当な扱いを受けているヴィオラを守ろうとしてくれているだけ。それは、彼の誤解から生じるものであったとしても、そこには厚意もある。