転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ～次期皇帝と婚約なんて聞いてません！～

　とくとくと規則正しく鼓動を刻んでいる心臓は、ヴィオラの肉体がヴィオラのものであると告げてくる。これは、夢なんかではない。

　ヴィオラはヴィオラとして、ここで生きているのだ――と。

「でも……魂は、たぶん、デンジロウさんと同じ世界の人間だと思います。だから、そういう意味では稀人と同じなのかもしれない、とも思います」

「魂、は？」

「生まれ変わりという概念は、ヤエコ様はお持ちですか？　デンジロウさんと同じ世界に生きていた“私”は死んだ。そして、この世界に“ヴィオラ”として生まれた……そう言ったら、わかりますか？」

　泣くつもりなんてなかったのに、目の奥がつんとしてくる。

　両親の顔、両親が経営する店に集まってきた常連さん達の顔、友人の顔――。

　唇をぎゅっと結び、手を握りしめて、涙が零れ落ちないよう懸命にこらえる。

「ヤエコ様の話を聞くと、デンジロウさんは“稀人”の中でもとても優秀だったと思うんです。天才と言ってもいいかもしれない――そして、たくさんのことを学べる恵まれた環境で生きてきたんだと思います」

　でも、ヴィオラは彼とは違う。生きた時代も、おそらく背負っているものも違う。

「私は、子供です。もっともっと勉強が必要――だった。まだ、家族と離れたくなかった。かなえたい夢だって……夢だって、あったのに……」