転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ～次期皇帝と婚約なんて聞いてません！～

　懸命にこらえているのに、涙はいうことを聞いてくれない。ヴィオラの意思を無視して、次から次へと溢れ出る。

「わ、私の家は、食事を出す店を経営していました。家族で経営するちっちゃなお店……お、大人になったら、私も、お店で働くんだって……私、ヤエコ様が期待するようなことは何も知らないの、知らないんです」

　ぎゅっとスカートを握ったままのヴィオラに、ヤエコは困ったような目を向けた。そして、膝をついてヴィオラと目線を合わせてくれる。

　彼女の手には、ハンカチがあった。

「悪かったね。そんな風に苦しめるつもりはなかったんだ――よかれと思ってのことだったんだが」

　彼女のハンカチが、そっとヴィオラの目におしあてられる。そうされたら、ますます涙が溢れてきた。

「まだ、子供だったんだね？」

　正確には子供ではなく十八歳だ。前世の法律では、結婚できる年齢も超えているから、大人といってもいいかもしれない。

　だが、ヴィオラの前世である“咲綾”は自分のことを大人だなんて思ったことは一度もなかった。

　ヴィオラもまた、自分が大人になったなんて思ったことは一度もない。そういう意味では、今と精神的にはたいした年齢差はないような気もする。

「私達が稀人を保護する理由は、稀人の知識を悪用されないようにするためだ――という話をしたのは覚えているね？」