転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
「……ヤエコ様」

 この世界に来てから、ヴィオラは与えられる一方だ。

 皇妃からも、母のような愛を与えられ、そしてまたヤエコが同じようにしてくれる。

「稀人の件は関係なく――タケルの嫁になってくれたら、本当の娘になるがどうする?」

「そ、それはちょっと」

 こんな時でも、ヤエコは変わらないらしい。

視線をさまよわせ、うろたえているヴィオラの様子に笑い声をあげたヤエコは、もう一度ヴィオラの頬を撫でてから立ち上がった。

「扉の外に迎えが来ているようだね。いつまでも引き留めておくのも彼に悪い。真実を聞かせてくれたことに心から感謝する」

 ミナホ国の王姉の顔を取り戻したヤエコは、ヴィオラに向かって丁寧に頭を下げる。

「タケルには、内緒にしておこう。あれは、気立てはいいが頭は悪い。今の話を受け入れる余裕もないだろうからね」

 それから、もう一度、ヤエコはヴィオラを抱きしめた。皇妃とは違うけれど、やはり母に似た温かさ。

 頭が悪いという言い方はいかがなものかと思うが、ヤエコが秘密にしてくれるということに、安堵した。

「リヒャルト様。どうしたんですか?」

「迎えに来た」

 扉の外で待っていたリヒャルトは、ヴィオラの方に手を差し出した。その手を取りかけ――一瞬迷った末にヴィオラは彼の胸に飛び込む。

「ど、どうした」

「なんでも、ないんです。でも、なんだかすごく安心しました!」

「申し訳ない、リヒャルト。話をしているうちに里心がついたようで、泣いてしまったんだ」

 泣きはらした目について、ヤエコがそう言い訳をしてくれる。ヴィオラを抱きしめるリヒャルトの腕に力がこもった。

「そうか、そういう時もあるだろうな」

 言外に「子供だから」とにじませながら、そのまま軽々と抱えあげられた。

子供じゃない――と心の中でつぶやきながらも、ヴィオラはそっと彼の肩に顔を埋めた。こうして彼の側にとどまれることに安堵しながら。



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