転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
「こちらの国に、ミナホ国のことを知っている人がいてくれて嬉しいよ。もっとも、こんな若い娘さんだとは思わなかったけどね」

 ヴィオラが持っていた百人一首を取り上げたヤエコは、文字札の方を一枚一枚めくっていった。探していた句が見つかったらしく、一枚を取り上げるとヴィオラに差し出した。

「これは読めるか?」

「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも……?」

 渡された一枚を受け取り、素直に声に出して読み上げる。

「これは、我が国の初代国王デンジロウが特に愛した句なんだ。これは――」

 ヤエコの説明を聞かずとも、ヴィオラはこの句が何を指すのか知っていた。

 咲綾が死んだのは、大学の合格発表があった直後。受験勉強の時の記憶はまだ残っていた。

 これは、安倍仲麿の残した歌。唐にあって帰国を許されなかった彼が、望郷の念を詠んだ歌である。偶然だろうとすぐに思い返したけれど、カレーが出てきた時の想像は当たっていたらしい。

(たぶん、デンジロウさんは……)

 この句を見て、思わず涙が零れた。

 この世界で生き始めてから、日本を懐かしいと思ったことはあっても、帰りたいと思ったことなんて一度もなかった。
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