転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ～次期皇帝と婚約なんて聞いてません！～

　リヒャルトに出会って、皇妃に出会って。ニイファが支えてくれて――そうして、ようやくこの国で生きていく地盤を固めることができたと思っていた。

（帰れるはずなんてないのに……）

　わかっている。咲綾としての肉体は、きっともう残っていない。

　ここにいるのは、ヴィオラ。ヴィオラ・アドルナート。

　それなのに、同じ世界から来たかもしれない人が遺した品に、こんなにも心を揺さぶられる。慌ててレースのハンカチで涙を抑えたヴィオラは、ヤエコの顔を見上げた。

「デンジロウさんって、どんな人だったんですか」

「……神の御使い、稀人、異邦人。お前達の世界では、どんな風に呼ぶんだ？」

「……わかりません。どういう意味でしょう？」

　ヤエコの話によれば、初代国王はある日突然現れたそうだ。それこそ、天から落ちてきたのではないかと思うくらい突然に。

　そして、彼は、ありとあらゆる手段でミナホ国を豊かにしようとした。

　たとえば、稲を刈った後の畑で麦を作ったり、さらに土地によっては蕎麦も作って、二毛作、三毛作と土地を有効活用できるようにした。

そうやって土地を活用すると土地がやせてしまうから、周期的に休ませ、肥料を与えて土地の力を回復させることも彼が提案したことだった。