転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
 ヤエコの招待を受けた翌日。

 ヴィオラは満月宮の厨房にいた。

「見て見てアラム! ミナホ国のヤエコ様からいただいたの!」

 ヴィオラが差し出したのは、小さな瓶に入ったカレー粉だ。スパイスをひいて粉にしたものを調合し、すぐに使えるようにしたものだ。

「ずいぶん刺激的な香りだな、姫様」

「そうでしょ! でも、すごくおいしいんだから。お肉にもお魚にも合うし、野菜と合わせてもおいしいのよ」

 アラムと呼ばれた男は、三十代だろうか。正確な年齢はヴィオラも知らない。

 ヴィオラが初めて皇宮で行われた食事会に参加した時、キノコによる中毒事件――実際は、毒物が盛られたのであるが――が起こり、毒性のあるキノコを使ったとして、首になった料理人がアラムである。

 無実を証明したのが、ヴィオラとリヒャルトであったことから、アラムはひとからならぬ恩義を感じてくれているようだ。こうして、厨房で過ごすヴィオラに一番長く付き合ってくれるのはアラムだった。

「この間もらったマドレーヌもすっごくおいしかった。お菓子職人にもなれるんじゃない?」

「や、あれは違う才能が必要だ。俺に作れるのは、素朴な焼き菓子どまりだな」

 皇帝の食卓に上る菓子となると、繊細な細工も必要になる。アラムは、そちらは苦手らしい。
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