転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
 オストヴァルト帝国の皇宮は、広大な敷地の中に政の場である太陽宮、皇帝と皇妃、皇妃の生んだ子どもの住まいである満月宮、そして、要人が宿泊するための新月宮を中心に、その周囲に星の名を与えられた建物が建てられている。

 ヴィオラも、この国に来た当初はクィアトール宮という星の名を与えられた建物で生活していた。

 だが、とある事件に巻き込まれた結果、今では皇妃預かりという立場で、満月宮に一室を与えられ、何一つ不自由のない生活を送ることになっていた。

 命の危険に怯えながら暮らしていた過去と比べると、今の生活は天国にいるみたいだ。

 のんびりとお茶の時間を楽しんでいたら、扉がノックされる音がする。ニイファが急いで立ち上がり、扉を開いた。

 開いた扉の向こう側に立っていたのは、この国の皇太子であるリヒャルトだ。付き添いの侍従は、扉が開かれたあとは、するすると邪魔にならない位置に下がっている。

「リヒャルト様! どうしたんですか?」

 飛び上がるようにして立ち上がったヴィオラは、小走りにリヒャルトに近寄った。

 ヴィオラの方に目を向けたリヒャルトは、濃茶の髪をかき上げ、ゆっくりと口角を上げる。

(……笑ってくれるようになった)

 ほっとしながら、ヴィオラはリヒャルトの前で頭を垂れる。

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