転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ ~次期皇帝と婚約なんて聞いてません!~
「もちろん、お父様が結婚しなさいって言ったら、断らない……断れないもの」

 遠く離れていても、父の命令はヴィオラにとっては絶対だ。断ることなんてできないし、父の決定に逆らうだけの力もない。

「だけど、私……ここにいたいの。満月宮ってことじゃなくて……このまま、帝国にいたいの。タケル様と結婚したら、ミナホ国に行かないといけないでしょう?」

「もし、そうなったら、私もお供いたします。ニイファがついていますから、安心なさってください」

 ヴィオラの側に膝をついたニイファは、ヴィオラの手を両手で握りしめた。

(ニイファの人生だって、ずいぶん狂わせてしまったのに……)

 オストヴァルト帝国にヴィオラが送られると決まった時、ニイファは迷わずについてきてくれると決めた。

 ニイファの両親はもういなく、家も途絶えてしまったから、国にとどまる必要はないと言って。もちろん、それも一つの真実ではあるだろう。

 だが、慣れ親しんだ故郷や友人を捨てて、遠く離れた地まで一緒に来させてしまった以上、ヴィオラがニイファの人生を変えてしまったという事実は打ち消しようもない。

「ニイファ、もし、ニイファが帰りたいのなら……」

「それは言わないお約束ですよ、ヴィオラ様。私がいるのは、ヴィオラ様のお側と決まっています。帰ったところで、喜んでくれる家族もおりませんし」

 こうやって、まっすぐな愛情と忠誠心を向けてもらえるのは、ヴィオラにとってはありがたいことである。

 ニイファに甘えている自覚はあっても、差し出された手をとってしまうのは、ヴィオラの弱さかもしれなかった。

「ミナホ国は遠いわよ? それに、うんと船に乗らないといけないんだから」

「覚悟してまいりますとも」

 縁談を阻止するために、ヴィオラにできることは何もない。ただ、父がヤエコの提案を受け入れなければいいと願うことしかできなかった。
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