『またね。』
「卯月くんには、絵があるじゃない。」
…それは、…もう…
「…もう、描かない。」
「なんで?」
「…僕にはもう、描けないよ。」
「…絵を描くことを否定したら、自分を否定するのと同じことだよ?!」
…僕だって、昔はちゃんと書いてたよ。
コンクールにも入賞するくらいの実力はあった。
中3の時の出来事さえなければ、まだ描いていたかもしれない。
僕の絵は…自然体なんだ。
人が自然に笑っている姿。
風景画。
僕はこのふたつを組み合わせて描くことが大好きだった。
『コイツ、私の事描いてやがんの、キモくね?』
モデルになることを承諾してくれていたはずなのに、こういうことを言われてしまう恐怖。
あの人に言われたことが僕の全てを否定された気がして。
それ以来絵を描くことはやめた。
なんで、佐倉さんが僕の絵を知っているのか、不思議で仕方ないけど、僕はもう、絵は描けない。
「…卯月くんの絵、私は好きだよ?」
「…」
「あの絵に励まされて、ここまで生きてきた私は、これから何を…何を生きがいにすればいい?」
「…」
「私は、小さい時からずっと病院で入院していたの。」
僕の絵なんて、褒めてもらう資格はないんだ。
「入院している時に見たあの絵がすごく綺麗で、描いた人を調べたら同い年だって知って…」
「…」
「今、こうして話が出来てるのが、とても幸せなのに…
なんで…?」
佐倉さんは僕をまっすぐ見つめる。
…僕は、怖いんだ。
次、モデルにするなら佐倉さんになる。
その時、またあの時みたいに言われたら…
そう考えると怖いんだ。
「…あっ…うっ…」
「佐倉さん?!」
ペタンと座り込んでしまった佐倉さん。
慌てて駆け寄って佐倉さんの体を支える。
…佐倉さんをモデルにしたら…
……
…描けるのは描ける。
「佐倉さん!!しっかりして!」
「…うあっ…」
苦しそうに顔を歪めて心臓を押さえる佐倉さん。
僕は彼女を抱えて保健室に向かう。
保健の先生は佐倉さんを横にして僕に教室に戻るように言う。
僕は佐倉さんのそばに行って呟く。
「…待ってて、佐倉さん。
僕、もう一度、描いてみるよ。」
…綺麗な、君の横顔の微笑みを。
【卯月輝side END】

【佐倉鈴side】
学校で意識を手放した後、目が覚めた時には病院にいた。
見慣れた、いつもの私の個室。
両親共に医者だから、お金には困ってない。らしい。
いつも通り制服に着替えて私は学校へ向かう。

教室の扉を開ける。
いつも、入ってすぐに卯月くんの姿が目に入るのに、今日は姿が見えない。
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