『またね。』
輝の青い自転車。
私はその後ろに乗って輝につかまる。
「輝。」
「うん?」
「急に言って迷惑じゃなかった?」
「鈴が急に言うのは今に始まったことじゃないでしょ。」
ケラケラ楽しそうに笑う輝。
…輝って、こんな顔もするんだ…
…ん?でも待って。
「それ、輝にだけは言われたくない!」
「あっはっはっ」
…本当に楽しそうに笑う輝。
この輝を見るだけで私も幸せな気分になれる。
「…ちょっと距離あるからね」
「いいの。」
私が、言い出したんだもん。
迷惑を承知でお願いしたんだもん。
そのくらい分かってる。
私の家からだいたい自転車で30分くらいだと思う。
毎朝毎夕、嫌な顔一つせずに送り迎えしてくれている。
…輝優しすぎるよ。
もっと自分を出してよ…
「ほら、見えてきた。」
輝が指さした先にあるアパート。
…年季が入ってるアパートだなあ…
「僕が生まれ育った家だよ。」
「ずっとここで…?」
輝は少しずつ自転車のスピードを緩めていく。
「着いた。」
輝の後ろから降りて私は輝が自転車を入れているのを見る。
「…?どうしたの。」
…あ、見つめすぎちゃった。
「なんでもないよっ」
輝は自転車に鍵を掛けてカバンの中に入れる。
自転車の鍵と入れ替えにアパートの鍵を取り出す。
「行こうか。」
輝の後をついて行く。
アパートの2階の一番奥。
…角部屋なんだ…
「なんにもないけど、上がって。」
「お邪魔します。」
1LDKなのかな?
広い。
…でも全てがひとつずつしかない…
寂しい。
「…あ…」
「ん?ああ、父さんだよ。」
玄関から入ってすぐに遺影。
「父さんに、いつも挨拶してから入ったりするんだ。」
「…」
寂しそうにお父さんの遺影を撫でる輝。
「ひとりで…」
「ん?」
「寂しくないの…?」
…私が輝だったら耐えられない…
「…僕だって、父さんが死んだ時は悲しかったよ。」
輝はキッチンへ向かう。
「でも、嘆いてばかりいても父さんは帰ってこないから…
高校に入るまでは父さんが遺してくれたお金で生活してたよ。」
…あれ?
…お父さんはいるけど…
お母さんは…?
「母さんのことは何も知らないんだ。
梨華っていう名前しか知らない。」
…輝は寂しそうに笑う。
…この顔は。
自分の気持ちを隠している時の顔だ。
「お待たせ。座って。」
輝はマグカップ2つをもってダイニングにやってきた。
コーヒーでも淹れてくれてたのかな…?
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