『またね。』
好きで、好きで…
いないって分かってても会いたくて仕方なくて…
輝のお母さんの所に行きたい。
…居場所が分からなくてそれも出来なくて…
輝のお墓に行くしかなくて、なんにも出来ない自分が悔しい。
「うん。まだ卯月のこと、好きでもいいから。
いつか、俺自身を好きになってくれる?」
「…なれるようになる。
磯ヶ谷くんのこと、好きになれたら私から告白するから。」
…輝がさせてくれなかったこと。
手術が終わって元気になったらもう一度告白して私の気持ち知ってもらいたかったのに輝はさせてくれなかった。
…きっと、輝は私の気持ちに気づいてた。
だから、私がちゃんと幸せになれるように全部、レールを敷いてくれていた。
間違った方へ行かないように。
幸せになれるように。
輝が教えてくれた命の大切さ。
…人を好きになる切ない気持ち。
「待ってる。」
磯ヶ谷くんは観覧車から降りて私に手を伸ばす。
「コケないようにね。」
「何それ〜」
そうだ。
磯ヶ谷くんとバイバイしたら病院に行こう。
輝や、輝のお母さんについて何か知れるかもしれない。
優しい磯ヶ谷くんの手を握って私は歩く。
お土産屋さんに入って雑貨を見る。
…前来た時はこんなのなかったのになあ…
未だにクラゲのネックレスをつけている私は…
時が止まったままだ。
「あ、これ鈴ちゃん似合うじゃん。」
磯ヶ谷くんはクマのぬいぐるみを私に手渡して笑う。
「なんでよ〜!」
笑いながら、私はクマを棚に戻す。
…ぬいぐるみなら、あるから。
可愛いペンギンのぬいぐるみが。

「ー…じゃあ、ありがとう!
今日は楽しかった!また行こうね!」
遊園地から出たあと。
私は最寄り駅で磯ヶ谷くんとバイバイして病院方面に向かう。
…少しでもいい。
輝のお母さんへの足取りをつかみたい。
「おや?鈴ちゃん?」
「あ、先生!お久しぶりです!」
中庭でベンチに座っていた先生。
かつての私の主治医の先生だ。
「どうしたんだ?」
「卯月、梨華さん、のこと、ご存知ですか?」
…輝のお母さんの名前は確か梨華さん、だった。
「輝くんのお母さんかい?」
「そう…」
「梨華さんは今隣町にいるはずだけど。」
…会って、何がしたいんだろう…
「調べてあげようか。」
「はい!」
…会って、何がしたい訳でもない。
ただ、謝りたい。
お礼が言いたい。
これだけで押しかけたら、迷惑かな…
「あ、あった。
住所しかないけど、いいか?」
「ありがとうございます!」
…やっと掴んだ。
梨華さんの居場所…
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