銀のナイフと薬を手にして
砂浜を歩いていくと、波打ち際を水鳥が走っていた。つん、つん、と華奢な足跡が点々とついていく。
からかうように追っていると、中岡さんがわたしの右手を掴んだ。前のめりになりかけて、流木が横たわっていることに気付いた。

「大丈夫か?」
ふいに男っぽく訊かれ、感情がいっぺんに揺さぶられた。うん、と小さく頷く。離れていく手を見ながら思った。
この人が好き。

空を仰ぐと一瞬、視界が白くなった。
太陽が眩しすぎたから人を殺したっていう小説があったな、と思いながら
「中岡さんにとって、わたしって何ですか?」
思いきって尋ねた。殺すよりはハードルが低い質問だと言い聞かせて。

「すごくいい子だし、可愛いと思ってるよ」
と中岡さんは答えた。穏やかに、それでいて慎重に。
「犬とか猫みたいな感じなの?」
「僕はななちゃんよりずっと年上だから」
「だから?」

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