銀のナイフと薬を手にして
「そんなふうに訊かれると思ってなかった」
「じゃあ、なんで誘うの?」
とわたしは気が遠くなりながら、訊いた。ああ、いやだなあ、と思いながら。始まる手前で終わる予感。ゆっくりと太陽が傾くように淡い幸福感が消えていく。
彼が黙ったのでお腹に力を込めてふられる準備をしていた。
「僕は」
「うん」
「僕はななちゃんが好きだよ。最初会ったときから、可愛いと思ってた。若いのにしっかりしてるし、いつもがんばっていて」
「え」
まさかのハッピーエンドに、わたしは言葉を詰まらせた。
「なによりも一緒に飯食ってると美味いよ。すごく和むし、本当にいい子だと思う」
わたしは嬉しさでほっとして泣きそうになりながら、中岡さんの顔を見つめた。帰ったら、さっきのグループLINEで恋人が出来たことをみき子たちに報告しなきゃ、と思いながら。
中岡さんはあらたまったように口を開いた。
「でも付き合えないんだ」
つかの間、網膜が太陽で焼かれてしまったように感じた。
意味が分からずに呆然と彼を見つめ返した。
ななちゃん、と中岡さんは呼びかけた。
すごく強い目をして。
「僕はエイズです」
「じゃあ、なんで誘うの?」
とわたしは気が遠くなりながら、訊いた。ああ、いやだなあ、と思いながら。始まる手前で終わる予感。ゆっくりと太陽が傾くように淡い幸福感が消えていく。
彼が黙ったのでお腹に力を込めてふられる準備をしていた。
「僕は」
「うん」
「僕はななちゃんが好きだよ。最初会ったときから、可愛いと思ってた。若いのにしっかりしてるし、いつもがんばっていて」
「え」
まさかのハッピーエンドに、わたしは言葉を詰まらせた。
「なによりも一緒に飯食ってると美味いよ。すごく和むし、本当にいい子だと思う」
わたしは嬉しさでほっとして泣きそうになりながら、中岡さんの顔を見つめた。帰ったら、さっきのグループLINEで恋人が出来たことをみき子たちに報告しなきゃ、と思いながら。
中岡さんはあらたまったように口を開いた。
「でも付き合えないんだ」
つかの間、網膜が太陽で焼かれてしまったように感じた。
意味が分からずに呆然と彼を見つめ返した。
ななちゃん、と中岡さんは呼びかけた。
すごく強い目をして。
「僕はエイズです」