銀のナイフと薬を手にして
と指摘しつつ、どうしようかと途方に暮れていると
「妙にうすら寒いし、火の通ってるものでも食いたいよな」
と中岡さんが言った。闇に降る雨と、傘に顔を隠した通行人を目で追いながら。
「賛成」
「じゃあ、焼き鳥とか、どう。今からなら一巡して席が空く頃だから」

新宿三丁目のごちゃごちゃした通りを抜けて、雑居ビルの一階にある小さな焼き鳥屋に入った。
「綺麗な服なのに申し訳ないけど」
と言いつつ中岡さんが暖簾をくぐると、店内は煙で霞んで、席も埋まっていてにぎやかだった。手羽先の焦げ目や水滴のついたビールジョッキにわくわくする。
奥の席に詰めて座り、ビールジョッキをぶつける。お通しは鶏皮ポン酢だった。歯ごたえがあって、さっぱりしている。

外は寒いぐらいだったけど、店内は蒸していてビールが美味しかった。塩気の強い焼き鳥ががぜん恋しくなって、店員を呼ぶ。
「僕は、ハツ、しし唐、鳥皮とねぎまで。ううずらもお願いします」
「あと、わたし、手羽先と軟骨も」
「お、いいね。二本ずつでいい?」
「はいっ」
と笑顔で相槌を打つ。中岡さんとわたしの好みは似ている。
焼き鳥が運ばれて来ると、美味しい、と言い合いながら食べた。炭の香ばしい匂いと、ジューシーな鶏肉。強めにふられた塩にビールがすすむ。


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