銀のナイフと薬を手にして
中岡さんとは、半年前に仕事で知り合った。有名企業なんかのWEBの
「僕はデザインじゃなく、中身をつくる人です」
というのが初対面の人に説明するときの口癖。
美味しいものが好きで、年上でバツイチだけど、身軽な雰囲気だから親しみやすい。適度に砕けていて、身なりも清潔で。

「なんで独り身なんだろ」
わたしは壁の時計を見ながら呟いた。

好きだ、とも付き合おう、とも言われてないけど、月に二回くらいはデートする。
先月、初めて家に遊びに行ったけど、そういう関係ではない。気に入られているくらいか。

色んな経験も収入もある中岡さんにとっては、周りにいる、ちょっといい感じの女友達の一人なのだろう。

大人なんだからそういうこともある、と自分に言い聞かせながらも、いつも優しく話を聞いてくれる笑顔を思い出すと、お腹の底がかすかに熱くなって、その分だけ切なくなった。

生しらすって美味しいのかなあ、と思いながら、ベッドに横たわり、爪先に触れないように毛布を掛けた。
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