すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「……ん……」

肌寒く感じる空気と冷たい床に体温を奪われ体を震わせながら目を覚ますと、家具など何もないガランとした寂しさを感じる部屋の中に転がされていた。
電気はなく、立てば藍里の胸ほどの位置にありそうな一つだけしかない窓の外は暗いようで、かろうじて今が夜なのだということだけが分かった。

「痛……っ」

体の向きを変えるために動こうとしたけれど手を後ろで縛られているようで、手首に縄が擦れて痛みが走る。
その上、長いこと室内の掃除をしていないのか少し動いたり息をするだけで床に積もった大量の埃がぶわっと舞ったのを見てゾッとした。

ーー吸い込んだら確実に発作が起きる……。

なるべく動かないようにしながら、何故こんなところにいるのかとパニックになりそうな頭で必死に考え、意識を失う前の事を思い出した。

「そうだ……車に無理矢理乗せられて……」

その後すぐにカーチェイスでもやっているのではと思うほどのスピードと荒い運転、至る所から鳴らされるけたたましいクラクションとサイレンの音が聞こえた。
あまりの恐怖に藍里は後部座席で伏せつつ、ドアを強く握り締めたまま気絶したのだ。

「私が勝手に家を出たから……」

「出てきてくれて俺としては大助かりだったけどな」

突然聞こえた声に心臓が嫌な音を立てた。
視線だけを声の方へ向けるとあの男がニタリと嫌な笑みを浮かべて立っていた。
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