すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「分かってます……。俺がちゃんと妻に話していなかったから……だからこんな目にあわせてしまった……」

ーー……違う……違うよ……。言うことを聞かずに勝手に家を出た自分が悪かったから……だから……。

まだ重く感じる瞼を懸命に開けると、眩しい照明の明かりが目について一瞬目が眩んだ。
握られている手に視線を向けようとしたがその前に智大と話していた男の人と目が合うと、その人は大きく目を見開いてから徐々に笑みを浮かべた。

ーー拡声器の人……?……銀行強盗の時にも現場にいた人だ……。

恐らく話が聞こえていたのを察したのであろうその人は、目を細めて小さく頷いた。
藍里は頷く代わりに一度ゆっくり瞬きをしてから改めて視線を動かすと、藍里の手を両手で握り、祈るように自分の額に押し当てて俯いている智大の姿があった。

「……も……ん……」

「……?」

「と、も……くん……」

「っ……藍、里……?」

智君。と幼稚園の時、智大に恐怖を抱く前に呼んでいた呼び方をすれば、智大が凄い勢いで顔を上げて驚愕の表情を浮かべた。

長いこと意識がなかったからか、救出される前に咳き込んでいたからか、喉から出る声はかなり小さく掠れていてはっきりしないけれど。
話を聞いて、どうしても今伝えないといけないと思い頑張って口を動かして声を出した。

「ごめ、んね……勝手なこと、して……。今、までも……ごめん、ね……誤解、して……」

ごめんね……。と溢れる涙をそのままに何度も謝ると智大は、違う。と首を振った。
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