すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
病室にいた男性はいつの間にかいなくなっていて、体力がまだ回復していなかった藍里もやがて泣き疲れて眠ってしまった。
それから数日間は念のために入院し、智大はその間に今回の事件の後始末を目が回る忙しさでやっているらしい。

そして、智大の仕事が落ち着き二日間だけ休みを貰ったその日に藍里も退院することになった。

「……えっ、と……」

「……」

家へと帰る車の前で、藍里は相変わらず助手席に乗ろうか後部座席に乗ろうか迷っていた。

いつものように先に運転席に乗り込まずに傍で立っていた智大が、そんな藍里の様子を無言で見ていてその視線が痛く感じる。
どうしようかとおどおどして、無難に後部座席にしておこうかとドアに手を伸ばした瞬間、その手をそっと掴まれた。

「藍里の特等席はこっちだろ?」

「っ……」

そう言いながら手を助手席のドアの取っ手に触れさせられ、藍里はふるりと震えながら顔を赤くした。

あれから智大はたまにだけれど藍里の事をちゃんと名前で呼ぶようになった。
言葉が少なくて冷たい印象を受けてしまうのも圭介に忠告されたようで、今までと違って出来るだけ言葉を選びながら長めに話してくれている。

対して藍里はと言うと長年の男性恐怖症が簡単に治るはずもなく、智大に対して怯えたりすることは多々あるけれど、前までのように智大といることで息苦しく感じたりという事は減った気がする。

それでも、たまに怯えてしまう時には智大が困ったような顔をしながら、今の言い方は違った。とか、さっきのは……。と藍里の不安を取り除いてくれることを優先してくれていた。

そんな智大に最近恐怖とは違った意味でドキドキするのを感じていると自然な動作で助手席に座らされ、すぐに智大も運転席に乗って車を走らせた。
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