すれ違いお見合い結婚～相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

譲りませんからね

「熱い」

夕飯の味噌汁を口にした智大がぼそっと呟いた一言に藍里はビクッと反応して恐る恐る顔を上げた。

智大の藍里に対する長年の想いと不器用さを知ってからなるべく怖がらないようにと心してはいても、その長年の智大の不器用さ故の言動のせいで男性恐怖症になってしまった藍里は突然呟かれる言葉に敏感に反応してしまうのだ。

「ご、ごめん、なさい……」

前にも味噌の風味が飛ぶと怒られたのに……。と血の気が引く思いで謝ると智大が、しまった。という顔をした。

「そうじゃない、今のは違う。……藍里は猫舌だろ？火傷するんじゃないかと思ったんだ」

言葉が足りなかった。と言われ藍里は目を丸くすると、いつの間にか強張っていた体の緊張をゆっくりと解いた。

「えっと……熱いのは冷めてから食べるようにしてる、から……。その、心配してくれて……ありがとう？」

智大が足りないと思えばすぐに言葉を足したり行動の説明をして誤解を解き、藍里の恐怖を和らげようとしてくれる。
藍里はその分、出来るだけ智大の言動を理解しようとし、不器用な優しさに対して素直な気持ちを伝えるよう努めていた。

藍里が小さく首を傾げながらお礼を言うと、未だに藍里の前では無表情な事が多い智大が少し嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
その表情が好きで、藍里も自然と微笑んだが次の瞬間固まった。