すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「えっと……ブレイブ君、とってもお利口さんでした……」

「はい」

「肌荒れもなく、爪もそんなに伸びていなかったので……揃える程度だけで処置してます」

「はい」

「シャンプーは………………あの……聞いてますか……?」

ブレイブのトリミングも終わり、受付の前で吉嶺に引き渡す際の報告は相手の目を見ずに何とかスラスラ言えていた藍里だが、吉嶺の視線がじっと自分に向いていて離れないのが気になって、おずおずと顔を上げてしまった。
途端に吉嶺は目を輝かせながら頬を赤く染め、口を片手で覆い悶え始めた。

「天使が……俺の運命の人が俺を見て話してくれた……!」

「て、んし……」

「藍里さんっ!俺、もっと貴女とお近づきになりたいんです!」

「や……こ、困ります……っ!」

吉嶺が身を乗り出し、藍里に近付こうとしたので藍里は咄嗟に受付の中に逃げこんだ。
突然すぎる吉嶺の言動が怖くて、震えながら潤んだ瞳で警戒しつつ見上げていると、吉嶺は幸悦とした表情をした。

「その仕草……その表情……もう全てにおいて俺の好みです。藍里さん、お願いですから一度だけでも俺とデートしてください」

吉嶺の必死な表情や言葉に全身に鳥肌が立ち、必死に腕を擦りながら首を横に振る。

その仕草も可愛い……。と獲物を狩るような目で吉嶺が言ったのを聞いて、背中がゾワッとした瞬間、どこからか強い殺意のようなものを感じた。
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