すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「妙な男に惚れられたな」

職場から家に帰るための車の中で呟かれた言葉に、藍里はぎゅっと身を縮ませた。
自分からは何もしていないが、配偶者のいる身であんなに言い寄られてしまっているのを知られてしまい、呆れられたのではと不安に感じたのだ。

いや、吉嶺からの好意をちゃんと否定していないからこそ、後ろめたく感じているのかも……。と自分なりに思っていると、智大が大きく溜め息をついたので、ビクッと反応してしまった。

「……違う、藍里に怒ってるわけじゃない。ただ、あいつを少し羨ましく思っただけだ」

「羨ましく……?」

あの後、仕事の邪魔になるからと智大は吉嶺を連れて何処かへ行った。
藍里の仕事が終わった時間に合わせて戻ってきた時は智大一人だったのだが、一体どれくらいの間一緒にいて、どんな話をしていたのかは怖くて聞けなかった。

「吉嶺は初対面から恥ずかし気もなく、あれだけストレートにアプローチしてきてるんだろ?
道徳的にはアウトだが、俺には出来なかったことだからな」

そう言って真っ直ぐ前を見つめる智大の横顔は、昔の事を思い出して少しだけ後悔が滲んでいるように見えた。

初めて出会った時から誤解が解けるまで、本当に長かったしお互い苦しかったし、辛い思いもした。
だからこそ、これからは誤解がないように関係を修復させていきたいと思っていた。
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