すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「……俺は、藍里と無理矢理結婚したことを後悔してない。でも、藍里の方は納得して結婚したわけじゃないだろ?」

「……確かに、いつの間にか結婚していて、そこには私自身の意思はなかったけれど……。
でも……それでも、相手が智君で良かったって、今はそう思ってるよ……?」

恥ずかしさのあまり顔を赤くして、出来るだけ途切れ途切れにならないように必死に言葉を繋いで言えば、目の前に座る智大は有り得ないとでも言うように限界まで目を見開いていた。

「俺で良かった……?」

「う、うん……。確かに今までは凄く怖かったけど……今は、出来るだけちゃんと言葉で伝えてくれるし……」

「吉嶺みたいにストレートには言ってないぞ?」

「あそこまでオープンに言われると恥ずかしくて……。あ、でも吉嶺さんみたいにじゃなくてもいいけど……」

言ってもいいだろうか、不快に思わないだろうかと智大の様子を気にしながらモジモジと指先を弄ばせる。
今まで言えなかった願いを今なら言える気がして、藍里は小さく息を吸い込むと、一気に言葉にした。

「たまにでいいから……鈍感な私にも分かりやすい、“素直な言葉”がほしい……」

「っ……!」

恥ずかしさのあまり目が潤んでしまい、泣きたくもないのに涙が溢れそうになる。
智大が藍里に対して言葉少なになってしまう理由は恥ずかしさからだと理解しているが、それでも他の人には素直な言葉で話していたりと自然体でいるのを見ているのに、自分にだけそれを向けられないのはやはり嫌だった。

我が儘でしかない願いに堪えきれずに涙が一筋流れると、智大は大きく息を吐いてそっと手を伸ばしてきた。
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