すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「ありがとう、嬉しい」

「……何が」

「ふふっ、何でもない」

智大の声がどこか気まずそうなのに対して、藍里は嬉しさを隠しきれないような少し弾んだ声をしていた。
ほっこりとした心に藍里はお湯を掬って香りを楽しんでいたら、智大はポツリと呟いた。

「盗撮のことは心配するな」

「……でも……」

ほんの僅かな隙間からどれだけ正確に藍里を狙って撮ったのかは分からないが、心配しないわけにはいかない。
何せその写真がネットで流出しようものなら、もう二度とこの世界から消せなくなってしまうのは藍里でもよく分かっている。
だからこそ、大丈夫だと言われても不安で仕方なかった。

「大丈夫だ。あれくらいの窓の隙間で藍里のいた位置なら、ちゃんと撮れていなかったはずだ。万一撮れていたとしても、ああいう奴は画像を流出させずに保存している事が多い。
絶対に流出させないし、吉嶺が無理だったとしても俺がすぐに捕まえてやる」

“ああいう奴”と盗撮犯がどんな人物か知っているような口振りの智大の言葉が気になり、藍里は智大の姿がぼやけて見える浴室と脱衣所の間にあるドアを見た。
パシャッと水飛沫が飛ぶと、智大は藍里が上がると思ったのか立ち上がったようだった。

「智君、ああいう奴って……」

「上がるなら一度外に出る」

藍里が聞く前に外に出てしまったらしい智大に、藍里は小さく息をついて立ち上がった。
きっともう聞く機会はないだろうと思いながら浴室を出ると、脱衣所の窓を見てぶるっと震えた。
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