すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
どれくらいの時間が経っただろうか。
床に座りこんだ力の入らない体がこれ以上倒れこまないようにベッドに上半身を預けたまま、ぼんやりする頭と焦点を失った瞳でただ壁を見つめていたら、突然乱暴に寝室のドアが開かれ誰かが入ってきた気配がした。
首すらも動かすことが出来ない藍里はその誰かに強く肩を掴まれ、成すがままに体を反転させられた。

「藍里っ!!」

呼ばれて顔を上げて何とか焦点を合わせると、そこには焦った顔の智大がいた。

ーーと……も……く……。

口を動かすけれど声にはならず、出るのはヒューヒューという喘鳴の音。
そこで初めて喘息の発作をおこしていたのに気付いたが、不安と恐怖の中にいた藍里は吸入より何よりも、先に安心したくて力の入らない腕を智大の首に回して必死に抱きついた。

「っ……待て藍里、先に吸入を……」

ーー嫌……やだ、離れないで……。

体を離そうとする智大に何度も首を振ると智大は息を飲み、やがて強く藍里の体を抱きしめるとそのまま勢いよく抱き上げた。

「分かった、離さない。移動するから大人しくしとけよ」

動く気力もない藍里はリビングに連れていかれ、智大は藍里を抱いたまま器用に吸入薬の用意をした。
ぐったりと智大の胸に凭れかかりながら吸入し、やがて終わって落ち着くまで智大は藍里の望み通りずっと離れないで傍にいてくれた。
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