すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「よく話せたな」

決して責める事のない落ち着いた口調で、全て話した藍里の頭を労るように撫でた智大の大きな手に藍里は眉を下げた。
結果的に話せたのは良かったけれど、藍里の顔は真っ青で指先も冷たくなるほど血の気が引いていた。

早く話さなければと思いながらも、隠し通したい、気付かれたくないという気持ちもあった。
相反する気持ちの中、やっと話せた安堵と知られてしまった現状に心の中はごちゃごちゃになっていて、藍里は涙を流しながら唇を噛み締めた。

「怒ら、ないの……?」

「俺が藍里に何で怒ることがある?藍里が悪いことをしたわけでもないし、ちゃんと話してくれたのに怒るのは違うだろ」

「でも、早く話してたらこんなことには……」

「じゃあ、何で言わなかったのか聞かれたかったのか?俺が信用できなかったかって?頼れなかったかって?」

じっと真っ直ぐな目で見つめられ、藍里は慌てて首を振った。
違う、そうじゃない。と言いたいけれど声にならず、藍里はただその目からポタポタと涙を溢れさせては智大の服にシミを作っていった。

「……何でちゃんと話さなかったのかなんて、長年恐怖を与え続けてきた俺が言えたことじゃないんだよ。
けど、お前はちゃんと言葉にしてくれた。信じて待ってて良かった」

智大の右手が何度も優しい手つきで頭を撫でてくれる。
頑張ったと、時間がかかってもちゃんと言えて偉かったと何度も言われた。

その言葉と手の温もりに藍里は目を瞑ると、甘えた猫のように智大に擦り寄った。
どれくらいそうしていたのか、やっと涙が止まると藍里はぽつりぽつりと話し出した。
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