すれ違いお見合い結婚～相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「そうですか？今朝、松浦さんに会った時はそんなこと言ってなかったんですけど」

ん？と藍里は疑問に思ったが、二人の会話に口を挟めないでいた。
今朝会ったのは吉嶺で、松浦ではなかった。
智大が間違えるなんて珍しいなと思っていたが、何故か警官も訂正しなかった。

「……きっと伝え忘れたんでしょう。松浦には僕から言っておきますので、以前のように一人で自由に出歩いて大丈夫ですよ」

「ああ、違った。松浦さんじゃなくて、吉田さんでした」

今朝会ったのは。と智大が言うので、藍里も警官も固まった。
吉嶺さんじゃなくて、吉田さん？と訳が分からない藍里は首を傾げ、警官は姿は見えないが戸惑っているような、声にならない声をあげているようだった。

「え……あ……えっと……」

「松浦さんは今日非番だって聞いてました。なら、やっぱり吉田さんだな」

「そ、そう……ですか……。では、吉田には言っておきますので……」

「ああ、やっぱり違う。吉田さんじゃなくて、吉嶺だ。……吉田と言う名字の警官は、ここら辺ではいないはずだ」

さっきまでの声とは違う低く鋭い声。
智大の雰囲気も一瞬で変わり、藍里は身震いした。

智大と警官の会話を頭の中で何回か繰り返した後、藍里はある可能性に至ってガタッとベンチから立ち上がった。