すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「悪趣味な上に随分自分勝手だな」

「何とでも言えばいい……僕は、あの表情のその人に恋をして、運命を感じたんだ……。
だから、僕にその隠してる顔を見せてほしい……恐怖と不安でいっぱいになって、怯えて震えるその顔を……」

じり……と靴で地面を擦る音が聞こえた。
ストーカーが近づいたその音に藍里は智大の服を掴む手に力を込めて、ぎゅっと目を瞑った。

「……気が合いそうだと言ってたが、本当に気が合うのか?吉嶺ーー」

「んなわけ……ないでしょうっ!!」

ここにはいなかったはずの吉嶺の声が聞こえたと同時に、ドカッと何かを蹴ったような音、その後すぐにドサッと何かが地面に倒れた音が聞こえた。

「“天使”と“潤んだ瞳で見つめられたい”と“名前を呼んでほしい”ってとこだけ共感したんですよ!こんな奴と気が合うわけないでしょう!?」

「お前が気が合いそうだって言ったんだろ」

憤慨している吉嶺の声に呆れている智大の声、くぐもった唸り声のようなものをあげているストーカーの声に、藍里は今どんな状況なのか全く分からなかった。

「あの……と、智君……」

「吉嶺!お前一人で突っ走るな!!しかも被疑者をいきなり後ろから飛び蹴りする警官がいるか!!」

聞いたことのない男性の怒鳴り声に藍里は硬直した。
痛いくらい握られていた手を離されると、智大は藍里を安心させるかのように背中に腕を回し何度か擦った。
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