すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「智君ここ座って!お薬は?何かしてほしいことある?」

まだ勤務中だった入江とは病院で別れ、藍里と智大はタクシーで家に戻ってきた。
さっき千栄と話していた時に感じていたような智大への気まずさなどは忘れ、藍里は利き腕を骨折した智大をソファに座らせるとその前に座り込んで未だに潤む瞳のまま見上げた。

「してほしいこと……何でもいいのか?」

「うん、私で出来ることなら何でも言って?」

「なら……」

動かせない右腕はそのままに、左腕だけを広げた智大は何も言わずにじっと藍里を見下ろした。

それは、ここに来いと言う智大の暗黙の誘いで、藍里は吊るされた右腕に触らないように気を付けながら、恐る恐る智大に近付き身を寄せるとすぐに強い力で抱きしめられた。

「……やっと抱きしめられた」

そう言いながらさらにぎゅっと抱き寄せられれば、藍里はその腕の力強さと智大の切ない声に何度目かになる涙を流した。

「智君……ごめ……ごめんね……ごめんなさい……」

「藍里は何も悪くないだろ?俺の言い方が悪かったんだ」

「違……私が言うこと聞かなくて……。どうしても記念日にお祝いしたくて……そんなの私の我が儘なのに……っ!
心配かけたのに怒っちゃったし……それに、思ってもなかったのに大嫌……っ……!」

泣きながら話していた藍里の言葉は最後まで続くことなく、智大に突然深く長く口付けられて藍里は硬直した。
ようやく離された時には息が上がり、全身の力が抜けてくたりと智大の胸に凭れかかっていた。
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