すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「うちの旦那は、これ幸いと甘えてくるでしょうね。最初はいいけど、ずっとそんな調子だと、こっちのストレスが溜まりそう」

ミニチュアダックスフンドのリンを洗いながら智大が怪我をしたこと、そして今日吉嶺が言っていたことを先輩に話すと先輩は苦笑いしながらそう言っていた。

「先輩はこんな時、旦那さんのお世話してあげたりしますか?」

「そりゃ、やってあげるわよ。利き手が使えないと何も出来ないでしょ」

「ですよねー……」

先輩の返事に藍里は溜め息をつくと先輩は、ん?と首を傾げた。

「え、もしかして小蔦は何も手伝わなかったの?」

「勿論手伝おうとしたんですけど……手伝う前に全部終わってるんです」

朝食は片手でも食べやすいようにとお握りを作ったので手伝う必要はなかったが、着替えなどの身の回りの事は藍里が手伝いを申し出る前に全て終わっていた。

「薬飲んでるって言ってもまだ痛みもあるだろうし、一人で大変だったんじゃない?」

「それが……痛みも不便なのも馴れてるって言って、いつも通り何でも一人でやってて……」

「そんなのが慣れるって……どれだけ過酷な職場なのかしら……。一市民としては安心感があるけれどね。
でも、何も手伝わせてもらえないのは妻としては寂しい話よね」

先輩の言葉に藍里は一度頷くと、リンにゆっくりぬるま湯をかけて体中の泡を流していった。
< 255 / 420 >

この作品をシェア

pagetop