すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
仕事が終わる頃を見計らって、迎えに来てくれた智大と一緒に家に帰ると、藍里は室内の現状に目を見開いて固まってしまった。

朝、家を出た時より確実に綺麗になっているし、洗濯物も取り込まれて、しかもきちんと畳まれている。
良い匂いがするキッチンからはカレーの香りがするし、浴槽は仕事から帰宅するとすぐに風呂に入る藍里のために掃除もしてあって、いつでも入れる状態になっていた。

「え……もしかして家のこと、全部やってくれた……?」

「まあ、暇だったからな」

「ありがとう……あの、すごく嬉しい……。でも、怪我してるんだから無理しないでほしかった……怪我の治りが遅くなるかもしれないんだよ?」

洗濯物や料理など、片手では中々難しいだろうにどうやってやったのか。
まさかまだ痛むはずの右手も使ったのかと藍里は心配しながらじっと智大を見ていると智大は、なるほど。と呟いた。

「あの時の藍里の気持ちが少し分かった。多少動けるからと思ってやったら、逆に心配かけるんだな」

「私も……頑張ってやってくれたの分かるのに、無茶したのが分かってすごく心配になっちゃうんだね」

「その時の立場に立ってみないと、分からないものだな」

二人で小さく笑いあってから、次はお互い無理はしないでちゃんと休むことを決めると、藍里はすぐに風呂に入った。
ピカピカになった浴槽には、すでに藍里が好きな入浴剤が入れられている。

本当に、どうしてここまで気が回って優しいのに今まで素直になってくれなかったのかと、前までは怖くて仕方なかったのに、最近は呆れてしまうと同時に苦笑を浮かべられるほどの心の余裕が出来ていることに藍里自身とても驚いていた。

冷たくて無表情で口も悪かった幼馴染みは本当はずっと自分の事を好きでいてくれて、素直になれないだけの不器用で優しい人だった……なんて今でも少し信じられないけれど、この優しい時間が壊れてしまわないようにずっと大切にしていきたいと思った。

風呂から上がれば、智大はリビングで片手で腕立てをしていた。
藍里がその前にペタンと座れば、智大は動きを止めてその場に座ると藍里を見た。
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