すれ違いお見合い結婚～相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~

「智君……」

小声で智大の服を引っ張りながら呼ぶと、智大だけでなく周りの男性達も藍里の方を見た。
その視線が怖くて顔を反らし、服を掴む力が少しだけ強まったが、そのほんの僅かな変化にも気付いた智大は藍里を安心させるためにか服を掴んだ手にそっと手を添えた。

「どうした？」

周りに藍里の恐怖の対象となる男性達がいるからか、怯えさせないように普段よりも優しい声色で問われ、藍里は胸がキュンと締め付けられるのを感じた。

「あ、あの……言いたいこと、が……」

チラッと男性達を見れば、みんな揃って気まずそうな顔をしていた。
出来れば関わりたくはなかったけれど、言うべきことはちゃんと言おうと思って、藍里は恐怖で声を震わせながら懸命に口を開いた。

「智君が言ってくれたように……謝罪は……受け入れられません……。でも……あの……今日は、嬉しかった、です……」

ありがとう……。と聞こえたかどうか分からない小さな声で言うと、智大が小さな子を褒めるように藍里の頭を撫でた。
その手の温もりに安心した藍里は智大を見上げて、ふにゃっと笑うと周りが一瞬ざわっとした。

「やべ……俺、もしかしたら小蔦のことタイプかも……」

「俺も……」

「自分にだけ心許してくれる奥さんって、守りがいあっていいよな……」

「言っとくけど、藍里はやらないからな」

男性達がひそひそと話す中、智大は不機嫌そうに眉を潜めていた。
その後は智大は男性陣と、藍里は女性陣とそれぞれ楽しく過ごした。

ケーキ入刀のような結婚式紛いのこともさせられ恥ずかしかったけれど、藍里は同窓会に勇気を出して来て良かったと心から思えた。