すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
〈智大side〉

ーー……まさか発作があったその日に無理して飯を作っているとは思わなかったけどな……。

帰ってくるまでの間の事を考えながら食べていた大盛りのシチューと、子供用かと思ってしまうほど少ない藍里のシチューが完食するのはほぼ同時だった。

後片付けをしようと立ち上がり、自分と藍里のスープ皿を手に取ると藍里が、あ……。と小さく声を漏らす。

何か言いたいのだろうとじっと見てみるが、藍里はいつもと変わらず目をさ迷わせて口を何度か開け閉めする。
小さい頃から変わらない、自分の発する言葉で相手が怒らないか必死に考えながら話そうとする藍里の癖の一つだった。

それを見ながら根気よく自分から話してくるのを待っていると、やがて小さな声で、片付け、私が……。と口にして俯いた。

こうなってしまえば後は話せなくなってしまうのも分かっていたので、瞬時に今の状況と藍里の言葉を照らし合わせて言いたいであろうことを推測した。

「……片付けは俺の役だ。例え俺が飯の準備をしたとしても、それをわざわざ変える必要はないだろ」

「で、でも……」

「しつこい、さっさと寝てこい。明日は買い物に行くんだろ」

尚も言い募ろうとした藍里の言葉を遮り目線を食器に向けてそう言うと藍里は小さく頷き、やがてゆっくりと動き出した。
足取り悪く寝室に向かう後ろ姿を横目で見ていると、やはりまだ体調が思わしくないのだろうと予想できた。

ーーそれなのに、無理ばかりして……。

小さな背中が見えなくなると同時に智大は大きく息をつき、手に持ったままだった皿をキッチンに運んだ。
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