すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「……で、これがその指輪?」

「うん、そうなの!」

藍里のお気に入りのリスのふれあい広場がある公園。
以前、智大とピクニックのように弁当を広げて食べたその場所に藍里は今日、千栄と初めて会う赤ちゃんといた。

まだ小さな千栄の赤ちゃんはじっとしているのが苦手なのか、芝生の上を這いずり回っている。
服や手が汚れてしまわないかと慌てていたら、子供は服を汚すのが当たり前よ。元気な証拠!と千栄に笑われた。

「……千栄もすっかりお母さんになったね」

「最初は何も分からなくて、焦ってばかりだったんだけどねー。あの子が親にしてくれたのよ」

そう言いながら目を細めて慈愛のこもった眼差しを赤ちゃんに向けた千栄の横顔が、藍里にはとても眩しく見えた。

「そんなことより、指輪とプロポーズよ!あの永瀬がそんなロマンチックなことするなんて信じられない!」

「私も、多分前までなら信じられなかったかもしれない……。でも、今は私のために一生懸命指輪を選んでくれたり、場所やタイミングをたくさん考えてくれたんだって素直に思えるの」

視線を落とした左手の薬指にキラリと光る指輪は仕事の時には外さないといけないが、家に帰ると毎回智大がはめ直してくれる。

その動作に今も慣れることがない藍里は、はめてもらう度にドキドキしてしまい、そんな藍里の気持ちを汲み取ってしまう智大は毎回愛の言葉を囁き、そして指輪をはめた指か頬、額か唇かのどこかに必ずキスをする。

その後にふっと微笑むから藍里が恥ずかしがっているのを分かっててやっている確信犯なのだと思うのだけど、指輪をはめ直してもらうそのほんの一瞬の時間が大切で大好きだから止めてもらうという選択肢は藍里の中にはなかった。
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