すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
〈智大side〉

「ふふっ……くすぐったい」

広場に入ると、藍里は智大が待っている柵の近くでリス達に餌をやり始めた。
我先にと群がるリス達がこぞって藍里の手のひらの上の餌に飛び付いていたり、腹が一杯で餌に興味を示さないリス達は藍里の頭や肩の上に乗ってその小さな体を使って藍里に擦り寄っていた。

「ずいぶん好かれてるんだな……」

他の人達よりも確実に多くリスに囲まれている藍里は、同じ広場にいる人達からも、すごーい。と注目を浴びている。
けれどそんなことに気付かない藍里はリス達に夢中だ。
優しい手つきでリスを撫でたり、何やら話しかけたりしていて楽しそうにしている姿を見て、連れてきて良かったと智大は目を細めた。

「っ……」

「ん……?」

一瞬、笑顔だった藍里が何かを耐えるような表情をした。
その後、腹に視線を移し、小さく首を傾げるとまた何事もなかったかのようにリス達と戯れだす。

「……また強く蹴られたか?」

活発らしいまだ見ぬ我が子は小柄な藍里に対して大きく成長したらしく、最近では少し動かれただけでも痛みがあるのだと言っていた。

けれど後少しで出産なので、その痛みを感じることがなくなる。
幸せの痛みだと思って残り少ない時間を楽しむんだと笑顔で言っていた藍里を優しく抱きしめたのはついこの前のことだった。
< 399 / 420 >

この作品をシェア

pagetop