すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
吉嶺と松浦にパトカーで病院に運ばれてから一体何時間経ったのか、藍里は分娩室で息も絶え絶えになり汗だくになりながら必死に頑張っていた。
あまりの痛みと疲労に何度も意識を飛ばしていたから、もう時間の感覚もない。

やはり小柄な藍里に対して赤ちゃんの頭が大きいらしく、中々出てきてくれないので吸引分娩に切り替えるか、それとも帝王切開かと医師や助産師が話し合う中、藍里は必死に言葉を紡いだ。

「ぎ、りぎり……まで……頑張らせて……ください……」

「永瀬さん……」

「赤ちゃん……頑張ってるから……私も……っ……ぎりぎりまで……っ!」

話してる間にも陣痛の波が押し寄せて、藍里は痛みに顔を歪める。
今は赤ちゃんの休憩のためにいきんではいけないと言われているので、痛みを逃すのに必死だった。

「赤ちゃんも頑張っていますが、永瀬さんも十分頑張っています。お母さん自体が疲労していては、お産が順調に進まないんですよ」

「う……っ……」

助産師の言葉に藍里は弱々しく首を振る。
分かってはいるけれど、それでも出来るだけ頑張りたかった。

「主、人……も……頑張ってる、んです……。だから……」

「ご主人?」

助産師が首を傾げたので、藍里は分娩室に備え付けられていたテレビを指差した。
そこには、ここから遠くも近くもない場所で起こった立て籠り事件の中継をしている。

物々しい雰囲気に特殊班の人達が建物を取り囲み、いつ突入するか、どう容疑者を確保するかと指示を待っているのが映像から見てとれた。
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