すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「あそこにご主人が……?」

痛みが引き、力なく頷くと藍里はぼんやりとテレビを見た。

緊迫した状況はいつ見ても全く変わっていない。
けれど先程とは違った動きを見せ始めた特殊班に事態は好転しているのか、それとも悪化しているのかと藍里はハラハラして仕方がなかった。

あの場にいるはずの智大が無理をしていないか、怪我などをしないか、智大のことが心配で気になって仕方ないのだが、そればかり気にしてもいられなかった。

「ぁ……ぅぅ……っ……」

陣痛の痛みに耐える藍里の疲労が強い。
これ以上お産を長引かせられないと医師と助産師が顔を見合わせ頷くと、意識が朦朧とし、気を失いつつある藍里に声をかけた。

「永瀬さん、これ以上は母子共に危険になります。後一回いきんで出てこなければ、帝王切開に切り替えます」

後、一回……。と藍里は小さく唇を動かした。
これまでも何度かいきんだが生まれなかった。
通告された最後のチャンスに藍里は震える手でお腹を一度だけ撫でると、重い瞼に逆らうことなくそのまま目を瞑り、ほんの少しの睡眠をとった。
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